第一章・19話|「家をつくる」を失なわせた機械信仰 - やっと出会えた本物の家

テーマはエコロジーな健康住宅

第一章・19話|「家をつくる」を失なわせた機械信仰

第一章・19話|「家をつくる」を失なわせた機械信仰

身のまわりから手の感触の残るものがどんどん減ってきている。しかも自然の素材から、化 学製品へと移行している。環境ホルモンの問題がこれほど大きな話題となっているにもかかわらず、住まいの中の雑貨品の多くはプラスチック製品だったりする。

価格が安い、汚れたら使い捨て、地球にも住まいと同じように容量の限界がある。住まいの 中から溢れ出たものが地球に捨てられ、地球もすでに消化しきれなくなってきている。

手づくりのものは食器だって室内のインテリア製品だって量産品に比べれば高い。ただ手の ぬくもりの感じられる自然の素材からつくりだされたものはやはり使っていて愛着が湧くし、 使えば使うほどまた味わいがでてくる。

化学製品がこれほど氾濫する理由は、扱いが楽ということもその人気の一つなのだと思う。

例えば洗濯機でジャブジャブ洗えてアイロンも要らない化学製品の衣類。

食器もプラスチックのお箸やお椀だったら食器洗い機で気にせず洗える。漆器だったらそう いうわけにはいかない。でも小さい頃から本物に触れているかどうかは大人になっての美意識、 そして大切なものは何かの価値判断に大きく影響してくると思う。

身に付けるものもそうだし、毎日何回か目にし、手に触れ、口に触れる食器などはむしろ量産にないもので、使っているうちに愛着が感じるようなものを使ってほしい。最近は陶芸を志 す人口も広がって、手づくりの個性的なものが比較的安価で買える。

確かに住まいの中には実に便利な機械設備が山ほどある。衣類を入れればスイッチポンで洗 いからすすぎ、そして乾燥までしてくれる全自動の洗濯機。

食器洗い機も今や一家に一台の時代になりつつある。この食器洗い機をめぐっては微笑まし いというか、希望されるのが何とご主人からというケースがままある。これで後片付けが楽に なるとおっしゃる、やはり世の中変わってきたなとの実感。後片付け専門にならず、是非つく るところから二人で台所に立ってほしいと密かに願っているのだが。

そのうちバスタブに入るとスイッチ一つで石鹸がでてくる、マッサージさながら体を洗ってくれる、シャワーで洗浄、最後に温風で乾燥なんてことにもなりかねない。今や当たり前の機械化もかつてはみんな人の手で行われていた。さまざまな自動販売機、それまでは人の手から手へと渡され、そこで会話の一つも交わされていた。

手を使わない、言葉も要らない、結果としてだんだん頭も使わなくなって、創造性たるもの が欠落していくようで何とも怖い。当たり前になっていくこと、慣れてしまうこと、それ自体 が毎日を新鮮に生きられない、惰性に流される生活になっていく前兆と思う。

身のまわりの生活が機械化され、その器である住まいも人間の感性を失わせてしまうような、 無機質な空間となり、住環境も一年を通じてほとんど同じような、寒くもない暑くもない状況を人工的につくりだしていったら本来備わっている人間のセンサーはきっと鈍っていくことと思う。

そのためにも、住まい選びの際にまず目に入るキッチンやトイレ、浴室などの設備は少し後回しに考えていきたい。本質的な部分での機能性があがったり、デザインが美しくなることは よいと思う。

ただ、本当に使うのかしらと思えるようなオプション機能がたくさんついて、価格もアップ、 しかも実際は使いこなせない、もっと悪いのが故障しやすい、場合によってはまだ使える部品 まで一緒に取り替えなんてことにもなりかねない最新の設備。

カーテンの開閉、外出先からエアコンのオンオフ、電気機器のセットまで人の手を使わずで きる、加えて音声でいろいろなことを教えてくれる、こうしたあまりに至れり尽くせりの生活 は、高齢者に優しいどころか、生活への適応性をなくさせてしまい、挙句の果てに、ぼけを促 進するようなもの。

手を差し出せば水が出る、これに慣れると使う時は蛇口をひねっても水を止めることを忘れる。トイレに水を流すのも自動化となればそれが当たり前になるだろう。これでは、高齢者で なくても、ぼけない方が不思議である。

人間のセンサーを鈍らせないためには、勝手にやってくれる存在を住まいの中にできるだけ 侵入させないことである。家の中で動くことはとても重要なこと、人工的に温度コントロール された空間にばかりいたら、そのうち暑さ寒さを感じない身体ができあがってくる。

機械換気も同じこと・機械換気は安心と、常にコントロールされていることに馴れきってし まったら、窓を開けて換気するという行為を忘れてしまうかもしれない。万一何かのトラブル で機械が止まった時にも、窓は閉じきったままの状態ということにもなりかねない。窓から入 る外気に触れ、息をすること、呼吸することの実感できる毎日を大切にしたい。

あえて言うなら機械は人間の手より早く、正確。ただ怖いのは、人と対時する時間より機械 と向かっている時間の方が長いなどということになってしまったら、ますます人間関係を苦手とする人口が増えていくのではないだろうか。それでなくても電話で話すよりメールで用を足す時代、用ならまだしも、愛情表現までが文字化されているという。

何か大切なものを置き忘れているのでは。

 

 

 

 

 

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